花の家
逃げようとする者を、痛めつける必要性が分からない。

「やめて……っ!」

 夢中で揚羽の腕にしがみつく。

すぐにへたり込みそうになる体を叱りつけながら、物騒な指揮者を睨む。

怒っているのが分からないのだろうか、揚羽の目は瞬いた。

不思議で堪らないというように。

「どうしたの、香里。ちゃんと殺しておかないと」

 純粋な目をして、怖いことを言う。

香里は前に、この笑顔が恐ろしいと思ったのを思い出した。

どうして、忘れることが出来たんだろう。

揚羽は危険だ。

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