花の家
 てふ塚へ向かう道は、幼い頃によく辿ったものだった。

田のための水路を横目に、二人は走る。

何故、みんなの忠告を聞かなかったんだろう。

塚が近づく度に、気が逸る自分と気後れする自分がいる。

家に帰りたいと思う自分と、家など、どうでもいいと思う自分。

だんだんと香里は、自分が分からなくなる。

「あ、げは、くん」

 名前を呼んだところで、もう彼は止まってくれない。

 もうすぐだ、あの思い出の塚は。

鈴と、多郎と、手を繋いで唄遊びをした塚は。

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