花の家
 約束、香里は唇を動かすことだけで繰り返す。

つい先日会ったばかりの揚羽と、何の約束があると言うのか。

「君が頼んだんだよ?」

 そんなこと知るわけない。

そう言おうとして、言えない自分に香里は驚く。

わたしは、その約束を知っている。

知る筈のない約束を。

『約束するよ』

 その涼やかな声を。

『必ず、君の願いを叶えよう』

 ただ悲しく、恋しいばかりだった心を掬い上げてくれた、彼を。

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