花の家
 心臓が早鐘を打つ。

 血の代わりに、全身へ喜びを送り出すように。

 まるで香里の知らない人間が、心の中に住んでいるようだ。

「……ああ、お会いしとう御座いました」

 訳の分からない言葉が口をついて出る。

音にすると、確かに会いたくて堪らなかったように思えた。

急に切なさが込み上げてきて、涙が溢れる。

 こんなのは変だ。

わたしは、約束など交してはいないのに。

「お願いです、どうか……」

 香里の口は、勝手に昔の約束を繰り返そうとしている。

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