花の家
 朝蜘先生の沈黙を肯定ととったらしく、揚羽は机の間を軽い足取りで進んでくる。

 泡を食ったのは香里だった。

 え、嘘、あの綺麗な子が私の隣に座るってこと?

 元々、人見知りの激しい香里だから、胃をぎゅっと掴まれたような緊張に冷や汗を流しはじめる。

「こんにちは。僕、麝香 揚羽。変わった名前で覚えやすいでしょ。仲良くしてね」

 親しげに話しかけられて、香里の体は、びくりと跳ねた。

 この学校のものではない制服が、彼の非現実感を高めている。

「こ、こんにちは。館花 香里です……」

「へえ、タチバナさんか」

 微笑む揚羽は王子様を通り越して、妖精か何かのように見えた。

 とても上手く喋れそうにない。

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