花の家
 揚羽が、香里の丸みを帯びた頬に手を伸ばす。

 香里は身を引こうとして、体が動かないことに気がついた。

香里の中の何者かが、彼に食されることを望み、その体を差し出そうとしている。

 まるで、この体が香里のものだと知らないみたいに、好きに振る舞っている。

 香里は泣きたくなってきた。

 みんなの忠告を聞かずに出かけた代償としても、これはあんまりだ。

 湧き上がる恐怖に、動かない喉で叫ぶ。

 誰か、助けて……!


 誰かと言いつつ、思い浮かぶ顔は一つだけだ。

< 132 / 274 >

この作品をシェア

pagetop