花の家
「隣が優しそうな人で安心したよ。こんな中途半端な時期になっちゃったから、馴染めるか不安だったんだ」

 自嘲気味に笑んで言う揚羽を、香里は意外に思った。

 こんなに素敵な人でも、そんな風に思うんだ。

「こ、ここの人は、みんな親切だから……大丈夫だ、と思う……よ?」

 緊張してたのは私だけじゃなかったんだと思うと、少し勇気が出る。

 つたない言葉だったのに、揚羽は嬉しそうに笑った。

「そっか。いい学校なんだね。ねえ、タチバナさん、」

 女性も男性も越えた美貌が、そっと香里の顔を覗き込む。

 やっぱり心臓が破裂しそうになるのだけど、さっきのように怖くはない。

「僕の一番最初の友達になってくれる?」

 不安に揺れる瞳で見つめられて、香里は切なくなってしまった。

 麝香くん、心細いんだろうなって。そう思ったら、声は自然と出ていた。

「も、もちろんだよっ」

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