花の家
 シャツが肩口から胸にかけて、袈裟がけに裂ける。

一瞬で、赤く染め上げられた布地から香里は目が離せない。

何が起こったの?

本当は、その答えを知っていたけど、信じたくなくて。


前のめりに倒れた鈴目は動こうとしない。

「あれ、上手く切れなかったね。痛そう、可哀想だな……もう殺しちゃった方がいいかも」

 きっと殺した方がいい、と自分を正当化するように揚羽は呟いている。

 香里は、首を振った。

目の前の出来事を、みんな無かったことにしたかった。

それなのに、幾ら頭を振っても、何も無かったことにならなかった。

じわじわと鈴の下に広がり始める血は消えてくれない。

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