花の家
「ごめんね、でも仕方ないよね。うん、仕方ない」

 揚羽はもう、鈴の命を奪うことに、心の折り合いをつけたらしい。

今度は慎重に、狙いすますように手を振り上げる。



「縛れ」


 凛とした声が、場を支配した。

振り下ろそうとした揚羽の腕が、不自然な動きで止まる。

「朝蜘……」

 揚羽が自分の腕に絡みつき、自由を奪った薄紅の糸を見て呟いた。

 振り向くと、朝蜘が揚羽の方へ、肩と水平になるように手を伸べている。

指先からは、蜘蛛の糸が、伸びていた。

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