花の家
「先生……?」

 その異常な光景に驚く余裕さえ、香里は持たずにいる。

変わらず、不機嫌そうに見える顔が、妙な安心を与えてくれた。

「……僕、蜘蛛って嫌いなんだよね」

 揚羽の目が朝蜘の顔を捉える。

捉えた刹名、その瞳孔が、すっと細くなった。

超然とした彼らしくなく、表情は憎悪をたたえている。


「奇偶だな。私も蝶は大嫌いなんだ」

 朝蜘は、左手で眼鏡を押し上げて、平坦に返した。

細めた目は、鋭利に光る。

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