花の家
「縛れ、縛れ……悪し蝶、花喰わぬよう、その腕、縛り給え」

 朝蜘の口が、呪文じみた言葉を紡ぎ出す。

その度に、揚羽の腕が強く締めつけられる。

ぎりぎりと音がしそうなくらい張り詰める糸に揚羽は笑った。

「む・か・つく」

 引っ張る糸の力に逆らって、揚羽は腕を動かそうとする。

「縛れ、」

 ダメ押しのように繰り返された文句に、蝶の細い腕は、更に引き絞られる。

ついに服は裂け、皮膚に傷がついた。

 だが、糸を伝って滴り落ちるのは、赤ではない。

透明な、

「あのアリと、同じ……?」

< 145 / 274 >

この作品をシェア

pagetop