花の家
 その透きとおった体液に、香里は、ぽかんと口を開ける。

人から流れでるのは赤い血であるべきなのに。


「……智恵子、鈴目を」

 鋭く研ぎ澄まされた声で朝蜘が命じるのが聞こえた。

鈴……その名前に、香里は弾かれたように立ち上がる。

そして、おぼつかない足で、地に伏した幼なじみの元へ向かった。

もう頭は飽和状態で、女友達の名前に反応することも出来ない。

「鈴……」

 近くで見ると、予想以上に傷が酷いのが分かった。

助からないかもしれない。

絶望的な観測に、手足が冷えていく。

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