花の家
体から、刻一刻と流れ出ていく命を、どうしたら止められるのだろう。

香里は、がたがたと震え出す。

何かしなくてはと思うのに、何をしていいのか分からない。

大事な人を失うかもしれない恐怖に、思考が凍りついて動かない。

「香里、どいて!」


 頬を叩くような声で呼ばれたかと思うと、肩を掴まれた。

そして、そのまま後ろへ押し退けられる。


「ちーちゃん……」

 揺れるボブヘアに包まれた、凛とした横顔は見慣れたものだ。

何故、彼女がここにいるのかだとか、そんな疑問は一つも湧いて来なかった。


「ちーちゃん……鈴、死なないよね?」

 震える声が、問う。

聞きたかったのは、それだけだった。

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