花の家
 智恵子は、香里の問いには答えずに、うつ伏せになっている鈴を引っくり返す。

「う、ぐぁ……」

 痛いなんて生易しいものではない筈だ。

鈴目がうめく。大きく裂けた肩口が、血を吐き出し続けている。

「酷いわね」

 短く呟き、智恵子は何を思ったか人差し指を血に浸した。

そして指を筆に、血を墨にして、文字を描きはじめる。

傷口の上から、香里には解読できない文字を。

「根の国、未だ遠かろう。玉の緒絶えぬよう、繋げ繋げ」


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