花の家
「手を、出して」

 凛とした声に誘われ、香里は右手を差し出す。

智恵子は、ベルトに差してあった小刀を引き抜いた。

その小柄は、十年前に朝蜘へ差し出されたのと同じ物だったが、香里には知りようもない事実だ。

「少し痛いわよ」


 智恵子の抜いた白刃が、香里の指の柔らかな腹を裂く。

薄い皮膚の下から、赤い玉が浮いて出る。

じん、と指先が痺れるような気がした。

「ちーちゃん、」

 何をする気なの、と問うより早く、智恵子は血の滴る香里の指を引いた。

そして、それを鈴目の口にあてがう。


< 151 / 274 >

この作品をシェア

pagetop