花の家
 地の表面は、花ごと大きく削られた。

丸裸の地面が、えぐれて赤土を晒している。

朝蜘に縛られていない左腕を振り上げて、揚羽が立っている。

青い顔をして、唇を震わせていた。


「僕の花を勝手に吸うなんて。その子は、蜜の一滴さえ、僕のものなんだ……!」

 蝶は再び、左の凶器を振るう。

彼の左手は、右手と違って精度がよくないらしい。

狙いも力の加減もついていない。

荒れ狂う風が、塚石を更に細かく砕いた。

狙いが正確だったなら、誰も生きてはいなかっただろう。

香里の顔から、血の気が引く。

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