花の家
 日に焼けた、健康的な肩だった。

「え……?」

 香里は、そのシャツから覗く肌に強烈な違和感をおぼえる。

傷が、ない。

揚羽に切り裂かれた、あの傷が。

わずかに赤い跡が残るのみで、どくどくと血を吐き出していた傷口は、どこにもなかった。

「虫の血が混じっているだけで、この回復力だ」

 あの化け物なら、腕の一本や二本、たやすく生えてくるだろう。

 これが、虫の力……?

 本当に、人とは違うんだ、と今更ながらに思う。


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