花の家
「もう……いいだろ、放してくれ」

 鈴は、拗ねたように朝蜘の手を払った。

肩口まで擦り下がったシャツを掻き寄せる仕草は、どこか傷ついた風でもある。

無体をはたらいた朝蜘に、気にしたようなところはない。

「また、君を食べに来るぞ。あの蝶は」

 そのまま、香里に視線を戻して言った言葉に、気が重くなった。


「蝶だけ、では済まないかもしれないんでしょう? 俺は、そこのところが聞きたいんですが」

 黙って成り行きを見守っていた多郎が、急に口を開く。

 え? どういうこと?


「てふ塚が壊れたということは、村の結界自体が弱まっているということ……」

< 203 / 274 >

この作品をシェア

pagetop