花の家
 香里は必死になって目を擦る。

 そうして再度教室を見ると、床に一面、花が咲いていた。

 もう冬になろうというのに。

「な、何これ……」

 背筋が寒くなって呟くと、机や椅子といった物の陰が薄くなっていく。

 同じく学生服を着込んだ人影も、霧のように霧散していく。

 香里の見知った世界が消えていく。

「そんな、なんで」

 慌てて立ち上がると、香里の座っていた椅子も消えた。

 教室は、すっかり森に変わっている。
 
 現実の森には咲いている筈のない花が揺れている。

 ふと隣を見ると、揚羽だけが座っていた。

 何故か驚いた様子もなく笑っている。


 怖い、理由もなく、その笑顔が怖い。

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