花の家
「気に入らないんだろう、俺と館花の婚約が」
分かっているくせに、こんなことを訊いてくる男が、鈴目は本当に嫌いだった。
「気に入らなかったら、何だって言うんだよ……俺に何が言えるって?」
悔しさからくる声の震えをかみ殺しながら、言う。
「アンタと香里の結婚なんて認めないって、だだでもこねろって? 一緒に逃げてくれとでも言えって言うのかよ」
言葉に、感情の熱がこもっていくのを止められない。
「そうだとも。想い合う二人が、決められた婚約から逃げる。感動的な話じゃないか」
朝蜘は、眼鏡を指で押しあげて、さらりと言う。
難しいことなんて、何もないじゃないかと言うように。
何もかも分かっているくせに、朝蜘は鈴目の気持ちになど気づかぬふりをする。