花の家
「おい、落ち着け、香里!」

 見えない手が乱暴に香里の肩を揺する。

 近くから聞こえる声は聞き馴染んだもので、ただ声を発する口だけが見えない。

「鈴……? 鈴なの?」
「そうだ、俺だ」

 力強い幼馴染みの声に、少し気が抜ける。

 目には見えないけど、この声は鈴のものなんだ。

怖がる必要なんてないんだ。

「俺は、ここにいる。分かるか?」

 香里は手探りで鈴を確かめた。

 高い鼻、鋭角的な顔のライン、運動が得意な引き締まった上半身、

 見えないけど、確かに存在している。

「先生、熱があるみたいなので、館花を保健室に連れて行きます」

 透明になってしまった鈴の凛とした声を聞いて、保健室、という言葉に香里は違和感を感じずにはいられなかった。

 だって、ここは森なのに。

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