花の家

 ……あれ?

ぎゅっと目をつぶって覚悟を決めたのに、考えていた恐ろしいことは何も起きない。


恐る恐ると後ろを振り返って、香里は、ぽかんと口を開けた。

倒れている。

さっきまで鬼のような顔で香里を追いかけていた男は、伏してゲホゲホと咳き込んでいた。


確かに顔色の悪い人だったけど……。

 これは、今のうちに逃げるべき?

 とは思うものの、こう盛大に苦しまれては離れづらい。


「だ、大丈夫ですか……?」

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