花の家
「なら、目を閉じなさい」

 朝蜘の口にする響きは地に足がついていて、すがるものとして、これ以上のものはなかった。

 怯えながら、香里は目を閉じる。

「思い浮かべなさい。ここは、見慣れた学校の廊下だ」

 ここは、学校の廊下、香里は自分に言い聞かせるように唱える。

「教室から保健室に向かう途中の、職員室を曲がった辺り」

 だんだんと毎日のように見ている、その景色が脳内に浮かび上がってくる。

「ほら、廊下の感触がするだろう?」

 朝蜘はしがみつく香里の手を取って、地面に触れさせる。

 いや、地面に見えていた、そこの手触りは、確かに滑らかで人工的な、廊下だった。

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