花の家
 幼かったので、よくは覚えていないが、父を亡くしたときもそうだったように思う。

 多郎は、泣いてばかりの香里を元気づけようと必死になっていた。

 慰めなくちゃならないのは、年上のわたしの方だったのに。

 後悔ばかりで成長できていない自分を、香里は疎ましく思った。

「大丈夫だよ、ありがとう。多郎ちゃん」

「大丈夫じゃないだろう。顔が真っ青じゃないか」

 これ以上の心配はかけまいと思って口にした一言も、あっさりと見破られてしまう。

「うん、ちょっと気分が悪いけど、帰って寝たら治るから……」

 実際は分からない。

 これは、一度きりのものなのだろうか。

 それとも、また起きうることなのだろうか。

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