花の家
「朝蜘さん、香里は……」

 朝蜘は、黙って鈴の前を歩いている。
 喋りたいときにしか喋らないって訳かと不平を漏らすと、やっと足を止めた。

 社会科資料室の前だ。

「廊下でする話じゃない。入れ」

 背広のポケットから出した鍵で、扉を開く。

 この男の冷静さが、鈴目は好きじゃなかった。


「で、何の話だ」

 鈴が中に入ると、朝蜘は後ろ手に戸を閉めて問う。

「最初に呼び出したのは、朝蜘さんの方でしょ」
「学校では先生と呼べ」

 誰の目もないのに、朝蜘は鈴の言葉に眉をひそめた。

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