花の家
 父は恐い顔で答えなかった。

 今、思えばあそこは社務所だったのだと思うのだが、連れて来られたがらんとした一間に鈴目は気後れしていた。

 村の大人たちが一様に厳しい顔をして座っている。

 のんきに寝息を立てている香里を、鈴目は少し恨めしく思った。

『館花の娘も、今日で七つ。人の世に根をはる歳になられた』

『早く開花の儀を行うべきだろう』

『土地に蜜を満たさねば』

 口々に囁かれる言葉のどれもが、幼い鈴には理解しがたい。

 帰りたくて堪らないのに、父がそれを許してくれず、床に座らされる。

 結果、鈴目は座っている間、ずっと出口の引き戸を睨みつけるようにして見ていた。
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