花の家
 そうして、どれくらいの間か仇のように睨んでいると、戸は独りでに、からからと開いた。

 幼い鈴目は目をみはったが、続いて入ってきた人影に、ほっと息を吐く。

 なんだ、念力に目覚めたって訳じゃないのか、と。

 入ってきた男は、黒の学生服に身を包んでいた。

 すっと伸びた背筋と表情のない面が彼を随分と大人に見せていたが、年の頃は少年といって良かった。

『朝蜘の、』

 と父が乾いた声で呟く。

『少々遅れました』

 朝蜘と呼ばれた男は年に似合わない落ち着いた声で、眼鏡の奥の目を伏せた。

 たったそれだけで、どんな恭しい御辞儀よりも礼にかなっているように感じた。

< 45 / 274 >

この作品をシェア

pagetop