花の家
『これほどの花が開いてしまうことこそ、問題だ。甘い香は虫を誘う。この娘、食い散らかされるぞ』

 蜜虫のくせに、そんなことも分からないのか。

 朝蜘が嘲るように言った。

 鈴目の横に座していた父が、猛然と立ち上がる。



『蜂須賀の家は、蜜虫ではない……ッ』


 空間に響き渡るような怒号であった。

 鈴は未だかつて、ここまで怒った父を見たことはなかった。

 頬がびりびりと痺れるような感覚がした。

『それは失礼した。虫喰いの同志殿』

 恭しい礼は、最早、馬鹿にするものでしかない。
 
 鈴は言葉の通じない場所へ来てしまった気分だった。

眼鏡越しにでも、あの冷たい眼を向けられたらと思うと、今すぐにでも走って逃げたかった。

< 48 / 274 >

この作品をシェア

pagetop