花の家
「香里!」

 よく通る声が聞こえ、続いて襖が開け放たれる。

 思わず振り向くと、そこには制服姿の、闊達そうな少女が立っている。

「ちーちゃん!?」

 香里の一番の友人である 尾上 智恵子(おがみ ちえこ)だった。

「今日学校来ないから心配したよ! 熱出したんだって? もういいの? あたし、クラス違うから、早退したの知らなくて……」

「ち、ちーちゃん、一気に喋らないでよぉ」

 頬をくるむボブを揺らして捲し立てる智恵子に、香里は退け腰だ。

 智恵子は明るくて、しっかりしていて、はきはきと喋る。まさに香里とは正反対だ。

 そんな智恵子を、いつも香里は眩しく見ている。

「智恵子さん、姉さんは気がついたばかりで……」

「あら、そうなの! なら、ちゃんと寝てなきゃ駄目じゃない!」

 多郎ちゃんも、ちーちゃんには敵わないんだよなあ、と途方に暮れたような弟の顔を見て、香里は少し笑った。
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