花の家
「もう大丈夫だよ、寝たら元気になったみたい」

 智恵子に会ったら、急に日常が戻ってきたような気がして、素直に元気なったと言葉にすることが出来た。

「それは良かったね、安心したよ」

 そう答えた声は、智恵子の声ほど高くはなく、多郎の声ほど低くはない。

 その声の主を探すように、香里の目が泳ぐ。

 そうして、一点で止まった。

「やあ、香里」

 部屋の敷居の上に立って、美貌が微笑んでいる。

 白い面の中で、睫毛に縁取られた目と整った唇が弓になっている。

「揚羽、くん?」

 その麗しさが自分の家の内にあるのが俄には信じられず、香里は確認するように、彼の名を口にする。

 名を呼ばれた揚羽の顔は、思いがけないプレゼントをもらったかのように喜色をたたえた。

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