花の家
「な、何で揚羽くんが、うちにいるの?」

「何でって、お見舞いだよ。友達が倒れたときは、お見舞いに来るんだよね?」

 違うの? と首をかしげる揚羽は、まるで悪気がないように見える。

「髪を梳かすまで、出てって!」

 香里は布団から鼻の頭だけ出して、叫んだ。

「どうしてさ。香里は頭が鳥の巣みたいになっても可愛いよ、きっと」

 香里の注文が不当だと言うように、揚羽が眉を寄せる。

 多郎は、そんな二人のやり取りを疲れたように見て、揚羽を部屋の外へ押した。

「智恵子さんも、他人の家に挨拶もなく入って来るのは、よした方がいい」

 そうだ。元はと言えば、智恵子が無断で入ってくるのが悪い。
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