花の家
「何よ、あたしとアンタ達の仲じゃないの」

 調子よく唇をとがらせる智恵子に、多郎はますます疲れた顔をする。

「姉さん、本調子じゃないんだから、まだ着替えは我慢して」

 そう釘をさして、多郎は渋る揚羽と部屋を出てくれた。

 ちーちゃんの馬鹿ぁ、どうして揚羽くんを連れて来るの、と悪態を吐きながら、香里は布団からブラシに向かって手を伸ばす。

「あんな美少年と既に友達なんて、香里もやるじゃないの」

 智恵子は、布団から伸びた手が取るより先に櫛を手にして、香里の髪を引っ張った。

「どうやって仲良くなったのよ」

「それは……わたしも分からない」

 何であんなに綺麗な子が、昨日会ったばかりの、わたしなんかのお見舞いに来るんだろう。

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