花の家
「もう、苛々するなぁ」
 
 うつむいた香里の髪を、智恵子は乱暴にとく。

「ご、ごめん。ちーちゃん、怒らないで」

 智恵子の棘のある声に、香里は慌てて謝罪を口にした。

 智恵子は香里にとって、唯一と言っていい女友達である。この友人に見捨てられたら、自分はどうしたらいいのかと香里は泣きたくなった。

「あんたが自分を否定すると、あんたの友達やってる自分まで否定された気分になるのよ。分かる?」

 拗ねたように言う智恵子の台詞を心の中で噛み砕いて、泣き出しそうだった香里は、だんだんと笑顔になる。

「ちーちゃん、それって、わたしのことが好きってこと?」

「何よ、その笑顔。むかつく!」

 智恵子が、せっかく梳いた髪を両手でぐしゃぐしゃに掻き回す。

 ひどい、と叫びながら、香里は笑っていた。

 好意が心地よくて、胸が満ちる気がした。

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