花の家


「あー、香里楽しそうだな。ねえ、どうして入っちゃ駄目なの?」

 部屋の外、襖に耳を当てた揚羽が理不尽を訴える。

「……貴方、姉さんの話、聞いてなかったんですか?」

 あからさまに盗み聞きを働いている男を、どう扱えばいいのか分からないといった体で多郎は嘆息した。

 聞いてたよ、僕が香里の話を聞いてない訳がないじゃない、と揚羽は小振りな唇を尖らせる。

 多郎は眉を寄せ、結局、聞かなかったことにした。

「それよりさ、君、何で家にいたの?」

「は?」

 突然の問いについていけず、多郎は間抜けな声を出す。

 射るような問いとは裏腹に、揚羽は先刻と変わらず笑んでいた。

< 65 / 274 >

この作品をシェア

pagetop