花の家
「あー、香里楽しそうだな。ねえ、どうして入っちゃ駄目なの?」
部屋の外、襖に耳を当てた揚羽が理不尽を訴える。
「……貴方、姉さんの話、聞いてなかったんですか?」
あからさまに盗み聞きを働いている男を、どう扱えばいいのか分からないといった体で多郎は嘆息した。
聞いてたよ、僕が香里の話を聞いてない訳がないじゃない、と揚羽は小振りな唇を尖らせる。
多郎は眉を寄せ、結局、聞かなかったことにした。
「それよりさ、君、何で家にいたの?」
「は?」
突然の問いについていけず、多郎は間抜けな声を出す。
射るような問いとは裏腹に、揚羽は先刻と変わらず笑んでいた。