花の家
「何だよ、その目は。言っとくけど、今回のは完全に朝蜘の言い掛かりだかんな」

 心外だ、と言って鈴は中身のなくなった紙パックを握り潰す。

「言い掛かりって?」

「テフヅカの話」

 むすっとして言い捨てる鈴に反応したのは、麗しの転入生だった。

「ねぇ、香里。テフヅカって、何?」

 わざわざ鈴ではなく、香里に訊いてくる辺りが彼らしい。

「テフヅカって言うのは、村外れにある石の塚のことです」

 そして、訊かれてもいないのに答えてしまう多郎も、実に多郎らしい、と香里は思う。

「そうそう。石碑に《てふ塚》って書いてあってね。子どものときは、それが《チョウヅカ》って読むなんて分からなくて……」

「鈴さんが自信満々に《テフヅカ》って呼んでたんです」


< 88 / 274 >

この作品をシェア

pagetop