つなぐのは君の手だけ
「あ~一日の終わりの数学はきつい~」

翔が嘆く。

翔は、高校一年の5月という不思議な時期に転校してきた。

高校始まって1ヶ月経ってもまだ馴染めていない私に話しかけてくれた。

とても嬉しかった。

私は昔から友達をつくるのが苦手だった。

人と話すのも緊張して無愛想になってしまう。

でも翔は懲りずに私に付き合ってくれた。

こんなつまらない人間と仲良くしてくれた。

「そうだよね」

私は言う。

「ね、和美カラオケ行かない?」

翔は長い髪をなびかせながら、私の顔を覗き込む。

喋り方も振る舞いもサバサバしてるけど、見た目は本当にかわいい。

「う~ん、お金ないし」

「そっか、じゃまた今度な」

こんなに付き合いが悪くても一緒にいてくれる。

翔は私といて楽しいのかな。

翔と私は帰る電車が同じだ。

駅のホームで電車を待ちながら翔は聞いた。

「和美、高校楽しい?」

「う、うん楽しいよ」

突然聞かれたので焦った私は答えた。

本当は翔がいてくれるから楽しいと伝えたいけど、うまく言葉で表せない。

「よかった」

翔は満面の笑みで言った。

「翔。。」

翔は?と聞こうと思ったら電車の音でかき消されてしまった。

電車の中は混んでいたので、私たちは揺られながら話していた。

といっても話をするのはいつも翔で、私はいつもつまらない相槌を打っているだけ。

ちょうど話がとぎれ、二人で窓の外を眺めていると電車が大きく揺れた。

と同時に私は倒れた。

自分で転んだのではない。

誰かが私にぶつかってきたのだ。

ぶつかられただけで、倒れるなんて恥ずかしい。

そう思っていると、私の顔の前に手が差し出された。

そうあの日のように。




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