きおく
「泣いてるのか」
 
病室に着くと春樹は泣いていた。
 
「誰から聞いた」
「ごめ…な……さい」
「泣く必要ないだろ」
「俺の記憶から啓介だけが消えてるなんて……辛かったでしょ」
 
もし俺が啓介の記憶から消えていたら辛いよという春輝を見て、話せばよかったのかと後悔した。
 
「春輝。俺達は親友だった。今でも、これからも親友だ。記憶なんかなくても俺達はずっと親友なんだよ」
「名前……」
「春輝が記憶を無くしてから呼んでなかったから違和感有るか」
 
首を振って俺を見る親友は、さっきまでの辛い表情がどこに行ったと思うぐらいに明るい表情になった。
 
「親友をできる残りの期間はあと3ヶ月。俺は3ヶ月以内に癌で死ぬから」
「……ずっと親友だ」
 
いきなりの余命宣告から、俺が死ぬその時まで、隣で笑ってくれた大事な親友。
 
「春輝と親友になれて良かった」
「俺も啓介と親友になれて良かった。絶対に記憶戻してみせるから」
 
かすれていく親友に俺は最後まで微笑んだ。
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