消え行く花のように
(―XXX―)




二人で過ごした部屋で……



綺麗に体を洗ってやり、服を着せ、ベッドにそっと横たえ、シーツをかけてやる。

まるで本当に眠っているかのような顔を見ていると、短い間ではあったが、共に過ごした日々のぬくもりが、まだ今もここにあるような錯覚を起こしそうになる。

後ろ髪をひかれるような思いを断ち切り、ベッドに背を向け、コートを羽織り、煙草に火をつけた。

深く、煙を吸い込み、長いため息と共に吐き出す……

(さて、と)

部屋に戻った時には、憲兵たちの姿はもうなかった。

意識を取り戻した後、何故ここへ来たかは思い出せぬまま引き上げたのだろう。

だが、そのうちまた違う追っ手がくるはず。

ここに長くとどまることは出来ない……

(行くか)

吸い終えた煙草の火を消し、リエルが持っていた紙袋を開けると、中には紳士用の手袋が入っていた。

黒い柔らかな皮で、内側は動物の毛の様に短く起毛した生地で作られている。



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