桜の咲く頃に
「あの…っ、昨日の…あの…お金が多すぎたので…」


しどろもどろになりながら桜は春菜に話し掛ける。


「気にしなくていいのに…どうせ私はこんなだし、母の好意だと思うから」


「でも、いくらなんでも多すぎます」


「…ねぇ?」


「はい?」


「桜はまだ咲かないのかしらね」


(え…桜?)


春菜が全く予想外に無関係な話しをふりだすので桜はたじろぐ。


「もうそろそろじゃないですか」


「そう」




……

…………


沈黙が続く。


「私ね、桜の花が大好きなの」


「………」


「昔、目が辛うじて見えていた頃に見た桜の樹が素晴らしくて」


「………」


「枝垂れ桜だったかしら、とても大きな樹で綺麗だった」


「………」


「桜吹雪の中に桜の香りが漂っていて」


「………」


「…今も見えたら…いいのにね(笑)」


春菜のひとつひとつの言葉が、寂し気で懐かしそうだった。


「いつか、また桜吹雪を見たい」


「…見れますよ、きっと」


「?そうね」


桜の言葉に、春菜は優しく微笑んだ。
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