桜の咲く頃に
外を歩く幼い桜に向けられる人々の視線


その視線は成長した今でさえも耐え難いものがある。


幼い桜にとってはその視線が堪らなく恐ろしかった。


(どうして僕を見るの?どうして?)


羨望、嫉妬。


猫なで声で桜を褒める大人達の声も、桜にとっては優しいナイフの切っ先だ。


(僕を見ないで…見ないでよ…見ないでよ…!!)


桜は鋏を握り締め自分の頬に刃をあて引いた。


数秒の間に数回止まりながら鋏は桜の右頬を殺いだ。


真っ赤な血がポタリポタリと畳に落ちた。


幸いすぐに手当てされ大事には至らなかったが桜の右頬にはうっすらとその時の傷跡が残っている。
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