桜の咲く頃に
部屋の中へ通され、玄関で応対した女性に案内され廊下を歩く。


「…娘がね…」


女性が小さな声で呟いた。


「あの子は目が見えないの、だからせめて花の香りだけでもって」


そう言い終わると足を止めた。


「春菜、お花が届いたわよ」


カラカラと開けられた襖の奥に、長い髪の少女が座っていた。


「…こんにちは」


春菜が桜と母親の方を向きながら言った。


瞳の焦点は合っていない。


「こんにちは」


桜もオウム返しに挨拶をした。


「…今日のお花はとても甘い香りがする」


春菜が言った。


「フリージアという花で、香りに特徴があるんです」


桜が言った。


「…あなたは…随分お若いのね?」


春菜が言った。


「…15歳です」


桜が言った。


「あら、それじゃあ私と2つ違いね、私は17なの」


化粧や髪の毛を染めていないせいか、春菜は17歳のわりには幼く見えた。


「…あの、ここで活けて良いんですか?」


「うん、ここで活けて」


桜は甘い香りの中で甘い香りを放つ花を活け始めた。
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