桜の咲く頃に
サクッ…サクッ…と桜がフリージアに鋏を入れる。


茎が柔らかい分、鋏を入れる度にサクッと柔らかい音がする。


「…今日の空はきっと青いんでしょう?」


「はい…」


「私ね、匂いで天気がわかるの」


「…そうなんですか」


桜はどう答えればいいのか解らず曖昧に返答した。


「昔は空も雲も花も木も見えていたのに…だけど全然苦じゃないの…自分でも不思議だけどね」


…パシャン


「あら?水の音…」


「フリージアは茎が弱いので、浅い花器に浮かべる感じで活けてみました」


スリ硝子に色とりどりの小さな花が映える。


水に太陽の光が反射し、色味を増しているようにも見える。


「…水の香りに、気が付かなかった」


春菜が焦点の合わない瞳で先程活けた花の方を見つめている。


「…もしかしたら、普段使用している水と違うせいかもしれません」


桜が今日使った水は、祖母の田舎の山間の村から湧き出る湧き水だ。
< 8 / 16 >

この作品をシェア

pagetop