ジェミニ
one
私の中には、もう一人誰かが居る。
物心付いた頃から、彼は私の中に居た。
はっきりとは覚えていないけれど、まだ幼稚園に通っていて、セーラームーンが大好きだった頃には既に居たと思う。
お母さんと出かけたスーパーで迷子になったとき。
友達と喧嘩して、重たいランドセルを背負いながら一人で下校した日。
ピアノの発表会の自分の発表の直前。
お父さんが私のお父さんではなくなって、お母さんと二人での生活が始まった日。
うちによく遊びに来ていたおじさんが、「お父さんって呼んでみてくれないかな。」とぎこちなく私に笑いかけた日。
いつだって彼は、私の中に居て微笑んでいた。
前に一度、聞いたことがある。単刀直入に「ねぇ、誰。」と。
まだ幼稚園に通っていた頃だと思う。まっすぐな目で、彼を見た。彼は私と良く似ていた。顔立ちと言うか雰囲気と言うか、とにかく似ていてそれが不思議で仕方なかった。
彼はそんな私の様子を気にした様も無く、どこかで聞いたことのあるような優しい声で「ぼくは君だよ。そして、君はぼく。」とだけ言った。
砂糖菓子のような、溶け出しそうなほどの甘い声音。何故だか解らないけれど、急に愛おしさに似た感情が込み上げた。
けれど彼の答えは私が求めている答えとは違ったし、幼い私には言葉の意味も、込み上げる気持ちの意味もよく理解ができなくて、それがなんだかもどかしかった。そんな私の気持ちを読み取ったのか、はたまた空気を読んだのか、「ナオ。ナオだよ。」と。
「ナオ?」
確認するように聞いたばかりの名前を繰り返す。ナオ。私の名前と似ている。
「君は、ミオでしょう?」
「なんで知ってるの?」
「わかるよ。なんでも。だって僕らはコインの裏の表のようなものだから。」
「よくわかんない。」
「そのうち解ると思うけど、解らなくてもいいよ。ほら、目を開けて。お母さんがミオの事を呼んでる。起きて、幼稚園に行く時間だよ。」
私の意識は、そこで途切れた。
物心付いた頃から、彼は私の中に居た。
はっきりとは覚えていないけれど、まだ幼稚園に通っていて、セーラームーンが大好きだった頃には既に居たと思う。
お母さんと出かけたスーパーで迷子になったとき。
友達と喧嘩して、重たいランドセルを背負いながら一人で下校した日。
ピアノの発表会の自分の発表の直前。
お父さんが私のお父さんではなくなって、お母さんと二人での生活が始まった日。
うちによく遊びに来ていたおじさんが、「お父さんって呼んでみてくれないかな。」とぎこちなく私に笑いかけた日。
いつだって彼は、私の中に居て微笑んでいた。
前に一度、聞いたことがある。単刀直入に「ねぇ、誰。」と。
まだ幼稚園に通っていた頃だと思う。まっすぐな目で、彼を見た。彼は私と良く似ていた。顔立ちと言うか雰囲気と言うか、とにかく似ていてそれが不思議で仕方なかった。
彼はそんな私の様子を気にした様も無く、どこかで聞いたことのあるような優しい声で「ぼくは君だよ。そして、君はぼく。」とだけ言った。
砂糖菓子のような、溶け出しそうなほどの甘い声音。何故だか解らないけれど、急に愛おしさに似た感情が込み上げた。
けれど彼の答えは私が求めている答えとは違ったし、幼い私には言葉の意味も、込み上げる気持ちの意味もよく理解ができなくて、それがなんだかもどかしかった。そんな私の気持ちを読み取ったのか、はたまた空気を読んだのか、「ナオ。ナオだよ。」と。
「ナオ?」
確認するように聞いたばかりの名前を繰り返す。ナオ。私の名前と似ている。
「君は、ミオでしょう?」
「なんで知ってるの?」
「わかるよ。なんでも。だって僕らはコインの裏の表のようなものだから。」
「よくわかんない。」
「そのうち解ると思うけど、解らなくてもいいよ。ほら、目を開けて。お母さんがミオの事を呼んでる。起きて、幼稚園に行く時間だよ。」
私の意識は、そこで途切れた。