~親友という名の絆~
「…ここに居る、娘を捧げます…」
父である神主の最後の言葉が合図だったかのように、涼は身に着けていた簑と傘を外した。
そして独り、離れた崖の縁へと歩み寄る。
飢饉の時は水底に建てられた社へ潜り、
水難時はこの崖から身を投じる。
その地点まで来て、涼の足は止まった。
風によって起こされる波が足元の数メートル下の岩壁に押し寄せる。
涼は手を組み祈りを捧げた。
「私の命を捧げます。
私の命と引き換えに、村を護って下さい。この雨を止めて下さい。誰かが犠牲になる前に…」
また一歩、前に踏み出す。
心なしか手が震えている気がする。
(…怖いの?寒いの…?こんなコトでどうするの…?
いいんだ…僕は、いいんだ…僕は、恐く…無い…)
彼女の足が一歩、宙に踏み出され、
重力に従い身体は傾き、堕ちていく。