白の世界~last love~
あたしが出てきたのは10分後。
先生の言ったことが理解できなかったから出てきた。
あたしが逃げ出した時、鈴原さんも先生も止めなかった。
しょうがない…と思ったんだろう。
…あんなことを言ったのだから。
無意識に歩いていて着いた場所は、やっぱり屋上だった。
都筑健の姿があるかなんて微塵も思わなかった。
…といか頭が混乱しすぎていて考えている余裕がなかった。
転落防止用に付いているフェンスに歩み寄る。
そしてしがみつきながら泣いた。
声を出さず静かに…
泣きながらさっき先生が言っていた言葉を思い出す。

「湊ちゃん?…心を落ち着かせながら聞いてほしい。最近湊ちゃんはよく発作を起こすようになった。それは心臓がそろそろ限界を迎えて来ているからなんだ。…分かるね?私が今から何を言おうとしているのか。湊ちゃんの寿命はもう長くはないかもしれない。もって2年…いや1年半かもしれない。それは長くてもだ。短かったら1年ももたないだろう。でもこれは湊ちゃんが発作を起さなかった時の寿命だ…。起したらもっと短くなっていく。医者の私から提案できることは一つ。手術だ。治る確率はグッと上がる。どうだろう?無理は言わない…けど考えてほしいんだ…」

それまで聞いたら逃げた。
…ここまで聞いただけ偉いと思う。
寿命の話を聞いただけでも相当動揺した。
嘘だとも思った。
信じたくないとも思った。
でも何より心が傷ついたのは鈴原さんに嘘をつかれたことだった。
鈴原さんが悪い話じゃないと言ったから安心してついて行った。
なのに聞いた話は絶対いい話じゃない。
先生の話を聞いてる間ずっと思ってた。

鈴原さんが嘘をついた。

あたしが病院内で一番信用してる人が笑顔で嘘をついたことが一番悲しかった。
一番聞いた時の衝撃が大きかった。
死ぬことなんて昔から覚悟はできてる。
でも鈴原さんにそんなことをされる覚悟なんて全くない。
だから傷ついた…。
…人を信用するのが怖い。
信用してた人に裏切られる怖さを知らない分…悲しいし、怖い。
隼人を亡くしたとき一番頼りにしたのは鈴原さんだった。
ぽっかりと空いた穴がすこしずつ埋まって行ったのは彼女がいたから。
泣いてるときに抱きしめてくれたから。
勤務外の時間もずっとそばにいてくれたから。
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