白の世界~last love~
ふわっと爽やかな風が入ってくる。
病院内の消毒の匂いが一瞬で消し去られて太陽の暖かい自然の匂いがする。
その瞬間自分が自分じゃなくなる気がする。
新しい自分に生まれ変わる感じ。
その感じが好き。
今日もすごくいい天気。
青々とした空が気持ちいい。
あたしはいつも自分が寝ているベンチへと足を運んだ。
…が。
そこにはいつもはいない先客がいて。
しかもそこで寝てたりする。
あたしの大嫌いな同居人…みたいなひと。
都筑健の姿がそこにあった。
…ね。
あたしの定位置とっちゃってさ。
しかもずいぶん気持ちよさそうに寝てますこと。
…最悪。
あたしが近くにいることにも気づかないようで少しも目を開ける様子がない。
全く。
あたしは都筑健を起こすか起こさないか程度の力でベンチを蹴った。
それでも起きない。
…なんてやつだ。
こいつ…死んでないよね?
いつまで経っても起きないからほんの少し心配になった。
心配になっても優しく起こすなんて生ぬるいことはしない。
今度は思い切りベンチを蹴ってやった。
ガンッと鈍い音が屋上に響く。
蹴ったのと同時ぐらいに都筑健が目を覚ました。…けど。
タイミングが悪かったようで「うわっ!」といってベンチから落ちてしまった。
あちゃー…。
タイミング悪っ。
「いって~…」そう言って腰をさする姿はまるで年寄りだ。
逃げようかなと思った時に立ち上がろうとした都筑健と目があってしまった。
「誰っ!…って湊ちゃんだ!」
「…ども」
「てことは…今蹴ったのも?」
「あたしですけど?」
ちょっと怒られるかなーと思ってビクビクしていたのであたしは明後日の方向を向いて話していた。
でも彼の反応は意外なものだった。
「そっか。まぁ…痛かったけど湊ちゃんならいいかなぁ」
「…は?」
何?コイツ。M?…キモ。
「ねーねっ!ちょっと話さない?同室同士さぁ!」
「遠慮します。」
即答します。
隼人と似たあなたの声をもう聞きたくないのですから。
「俺昨日湊ちゃんの危機助けたのにな…」
ボソッと都筑健が言った。
うっ…。
そうだった。
あたし昨日こいつに助けられちゃったんだ…。
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