私こそ光る☆君 ~エレジー編~
「そんなに驚くことじゃないでしょう?」


急に立ち上がった私にお母さんが目を丸くする。

その言葉を、私は首を左右に千切れんばかりに振ることで否定した。


いや、普通驚くって!

何なの急に!?


話がご飯を食べながらでなくて良かったと思う。

食卓の大惨事は間逃れたわけだ。



「それでどう? アイドルやってみる気ある?」


『イヤッ!!』


今度はきちんと言葉で否定した。


「あらどうして?」


どうしてって……。

心底不思議そうなお母さんに、逆にどうして私がアイドルをする気があると思うのか問いたい。



『私向いてないし。だいたい普通にアイドルなんてやってもつまらない。お兄ちゃんがやってるの見るだけで十分だし』


家族がみんな芸能人で、お兄ちゃんと従兄はアイドルで。

見ていて大変そうだなぁと思う。


アイドルとしてしか得られない経験もあるとは思うけれど、私は学校に行って、放課後や休日に友達と遊んで、クラスの誰かに恋をするような平凡の女の子でありたい。

過度に刺激的な日々より、この平和で平凡な日常が好きだから。

恋愛に関してはまだよくわからないけど。


それに、芸能界の裏の顔も少しは知っているつもりだ。

決して楽しいことばかりじゃない。



「じゃあ、普通のアイドルじゃなきゃいいのね?」


『いや、そういう意味じゃなくて……』



目を爛々と輝かせて迫る母にしり込みする。


身内ながら、もとが美形なだけに迫力があって怖い。



「さすが私の娘ね。お母さんもそれじゃあ物足りないと思ってたのよ」


マズイ。

非常にマズイ……。

話がどんどん危ない方向にいってる気がする。



「あなたには男装してアイドルデビューしてもらいます」


天井に高らかに響く声。

ついさっき訪れたと思った平穏な朝は、母のとんでもない思いつきによってかき消された。


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