ドラゴン・テイル
「聞いたことくらいはあるでしょ?」
唐突に振られた話についていけず、困惑した表情を浮かべるウル。
「なんの話? どうしたの?」
「『ドラゴンテイル』っていう剣の事よ。
その剣は手に入れた人の願いを叶えるっていう話!」
あぁ……
ウルは思い出したように呟いた。
「そりゃ聞いたことはあるよ。有名な話だから。でも、所詮作り話だよ。何でも願いを叶える、そんな都合の良い剣なんて」
呆れたように答える。
「あら、どうして無いって言い切れるの? 探した事もないのに」
リムレットは少し興奮気にウルの顔をのぞき込むように見て言葉を続けた。
「誰も見た事が無いだけよ。きっとどこかにあるわ。だって、無いならこんな話は伝わるはず無いもん」
「こんな話?」
ウルが聞き返すと、リムレットは満足げに笑みを浮かべ、「知りたい?」と言うような視線を向けた。
「竜の魂が眠りし場所。その魂は想いとなり、想いは歌となり風に乗る」
歌うように、リムレットが言葉を紡ぎ始めた。
「風は歌と共に、歌は風と共に、巡り巡って戻りゆく。想いは涙となり、魂を継ぐ者を待つ」
ウルは黙って聞いた。
風が木々の葉を揺らし、僅かに音を立てる。
「歌に導かれし者のみ、その涙を手にするだろう。涙は剣となり、魂を継ぐものの想いを叶える……」
辺りに沈黙が落ちる。
ウルは、少し考えて疑問を口にした。
「その話、誰に聞いたの?」
「ママよ」
「魂が想いに、想いが歌に?
全部形が無いものだね」
「涙になる前まではそうね。それがどうかしたの?」
「歌はどうして涙になるの?」
「知らないわよ」
「涙が剣になるって、どうやって?
魔法? おばさんはその歌聞いたの?」
「だから知らないって。
それに、ママが聞いたなら剣があるはずでしょ?」
「違うよ。
『歌に導かれし者のみ』だよ。歌を聞いて、何でおばさんは行かなかったの?」
「私が知るわけ無いじゃない。
……でも」
「……でも?」
リムレットは勝ち誇ったように笑いながら言った。
「ウルだって信じる気になったでしょ?
『ドラゴンテイル』」
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