ドラゴン・テイル

 黒竜が、ラーマに狙いを定めて突進してくる。足下のウル達に気を取られた一瞬だった。

 ─…早いッ!

 その巨体からは考えられないほどの速度でラーマを突き飛ばし、壁に叩きつける。

 激突の衝撃で壁が崩れ落ち、ラーマの姿を覆った。

「嘘だろ……ッ」

 ラーマが起きあがる気配は無い。

「たった一撃で……ッ?!」

 驚きのあまり、呆然と呟くクレイグ。

 黒竜が、視線を移す。

 完全に抜け落ちた天井から注ぐ星と月の僅かな光で、黒竜の姿が照らし出された。

 黒く突き出た顔の口に当たる部分に、真っ黒な牙が光る。

 頭の先からは一本の巨大な角があり、その両側にある小さな突起は耳だろうか。両腕の肘の辺りからも角のような物が突き出している。爪は鋭く、背にはごつごつとした巨大な翼。

 竜神バハムートを思わせるその姿全体から、押しつぶされそうなほどの威圧を放っていた。

 ─これが……黒竜、カスタール……。

 壮絶な姿に停まりそうになる思考を必死に動かせる。

 こいつを倒さなければ、再び竜の支配する世界が訪れてしまう。また、戦争を繰り返すことになる。

 クレイグに狙いを付けた黒竜が突進してくる。だが、クレイグは動かない。

 黒竜の威圧に金縛り状態のクレイグ。

 ウルは、咄嗟にクレイグを掴むと思いっきり引き寄せた。

 ドゴゴゴッ

 空振りしたカスタールは、そのまま壁を突き破る。ウルは、クレイグの肩を掴み、自分の方に向かせて叫んだ。

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