ドラゴン・テイル

 クレイグが戻ってくるのは早かった。
 走り去ってから10分も経たない内に、ウルを連れて来た。



「えーっと」

 クレイグが、キスティンにウルを紹介した。

「こいつがウル・マーロウ。魔術師としては多分この町で右に出る者はいないって聞いたことある。実際真夏にあのでけぇ魔専の別校舎内を全部氷付けにしたんだぜ。一人で」

 魔専とは、魔術師専門校の略称だ。

「で、結局次の日の朝まで氷が溶けなくてさ! 師範にこっぴどく叱られてたんだ。あれはお前にゃ悪いが笑った」

 けたけたと笑うクレイグを、恨めしそうな目で軽く睨むウル。

 その視線に気づいたクレイグは慌てて笑うのを止め、コホンと軽く咳払いをした。

 今度はウルにキスティンを紹介する。

「この子はキスティン。精霊士らしいんだけど、俺には一度もその精霊を見せてくれないんだ」

「仕方ないじゃない。用も無いのに呼び出しちゃ悪いし。精霊は玩具じゃないんだからねっ!」
 間髪入れずにキスティンが言う。

 精霊士とは召喚士と似ているが、召喚士がモンスターを召喚するのに対して、精霊士はその名の通り精霊を召喚する。

 精霊士には精霊と交信出来る者しかなることが出来ず、例え交信出来たとしても精霊に力を貸してもらえなければ召喚は出来ない。つまり、交信が出来る全ての人間が精霊士になれるとは限らないのだ。
 その為、精霊士の数は少なく、その名を知らない者も少なくない。

 幸い、この町に精霊士の師範がいる為、ウルはその名を知っていた。


「よろしくね、マーロウさん」

 笑顔を作り、挨拶をするキスティン。

「……よろしく」

 笑顔は無い。


 それからしばらく、三人はその公園で立ち話をした。

 クレイグが迷惑とかかけてない? こいつ昔から不器用で、ホントに騎士なんかになれるか心配なんだけどどう思う? 普段何してるの? 魔法の練習ってきつい? 等々。

 キスティンが尋ねる質問に、ウルは一つ一つ全て答えた。

 クレイグが騎士になれるかどうかだけは、答えが曖昧だったが。



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